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さくら、さくら



学園からやや離れた場所にある長々と続く桜並木。
そこへ七は通りかかった。
正確には、通りかかってしまった。

春の強風に煽られ、幾らか花びらが舞っている。
不意の寒さや雨で派手さを欠いたものの、まだまだ綺麗だ。
綺麗なものは好き。
特に桜は。
それでも、まだひとりで見るには耐えられぬ。
七は足早に帰路へと着いた。
頭上を見ないように俯いても、散った花びらが目に飛び込んでくる。
それに困り果てては、ただただ足を速めることしかできなかった。




「衣幡ちゃん、美味しいよ~!」
「そ?よかったわね。」

キッチンから食器を片付けて戻る七に、女が声を掛けた。
パフェパーティーをやるのだと帰宅した七を玄関で待ち構えていた彼女は、両手いっぱいに買ってきた材料をふんだんに使って、幾つものパフェを拵えては平らげていた。
彼女の行動に呆れつつも、誰かと話したかった七は、彼女の好きなようにさせる。
パフェを食べる彼女を眺めていて、ふと窓の外を見ると一本の桜が目に飛び込んできた。
見える所にあったのか、と目を逸らすが、それが逆に彼女の目に留まる。

「そういえばさ~桜、今綺麗だよねぇ。」
「…そうねー。」
「衣幡ちゃん見に行った?」
「早咲きの夜桜なら。」
「去年も早咲きの桜見に行ってたよね~。早咲きが好きなの?」
「ん?別にそんな事はないわ。七分咲きも綺麗よね。」
「じゃあ、まだまだこれからだねぇ。」
「んー…そうだけど、今年はもう見に行かないかも。」
「なんで?」

きょとんとする彼女に、七はどう返答したものやらと迷ったあげく、彼女の大きな目に降参したように答える。

「一緒に行ける人が居なかったから。…こういう事言わせないで頂戴な。」
「わ、ごめん。」
「…いいのよ。新年度だし、なにかとバタつく時期だもの、仕方ないわ。」

すぐさま申し訳なさそうに謝る彼女に七は笑って返す。
彼女はそっかぁ、と呟いて、パフェを口へ運んだ。
七は目を逸らしているものの、座った彼女の位置からも桜の木の頭が見えている。
それを眺めながら彼女はパフェを飲み込んで、再び口を開く。

「ひとりで見には…」
「…行かない。」
「…ちょっとわかる。」
「ね。」

だよねぇと口ごもる彼女は、じっと七を見詰めてきた。
それに気付いて、不思議そうに七は見返す。

「なあに?」
「……前から気になってたんだけどさぁ、」
「うん?」
「衣幡ちゃん、さみしいって言えばいいのに。」

七は彼女の虚をつく言葉に目を丸くした。
見詰めてくる彼女の目に見透かされてる気がして、思わず目を逸らす。
それでも実のところ、そう言葉にされて初めて気付く鈍さなのだ。
拭っても晴れない気持ちに振り回されたが、これはさみしかったのか、と自分の心に気付いて、驚いているのだから。
呆れると同時に、それでもすぐに沸くのは別の感情。

「でも、きっとみんな優しいから、そんな事言ったら都合悪くても付き合ってくれそう。それは悪いわ…。」
「そういう変な遠慮、止めた方がいいと思うよ?私なら距離感じる~。」

そう言われて漸く気付く。そういうのもあるのか、と。
確かに、どんな本音でも受け止めると決めた時、やんわりとした言葉に傷付いたものだった。
どうしようもなくなって頼った時、頼ってくれて嬉しいと言われて、どれほど驚き、同時に救われ、嬉しかったか。
他にも色んな事を思い出して、困ったように笑う。

「人付き合いって難しいわね。」
「難しいよ。だからさぁ、あんまり逃げないで言ったらいいと思う~。」
「…うん。……頑張る。」




彼女が帰った後、七は浴槽に浸かって声を出して泣いた。
そんな風に泣いたのは初めてだった。
そして、風呂から上がって少しばかり晴れた気持ちに気が付く。
泣いてもいいのか、と思うとほんの少しだけ楽になった気がした。
それでも滅多に涙なんか出ないのだけれど。

何かいい事ないかしら。
ないのなら、いい事を作りに行きたい。

今度の晴れの日何処かへ行こう。
それだけ決めて、布団へ潜り込んだ。
きっと今日は、嫌な夢は見ない。



ある春の日の話。
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